大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和40年(ワ)342号 判決 1968年2月19日

主文

1  原告の各請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「1、被告中尾純一、同中尾芳郎、同中尾正昭は、別紙第一目録記載の土地のうち別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)

(イ)の各点を順次直線で結んだ斜線部分(以下「本件土地」という)につき賃借権を有しないことを確認する。2、被告中尾純一、同中尾芳郎、同中尾正昭は、各自原告に対し昭和四〇年三月一日以降同年四月一五日まで一箇月金五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。3、被告中尾純一は、原告に対し第二目録記載の建物(以下「本件建物」という)を収去して本件土地を明渡し、かつ昭和四〇年四月一六日以降本件土地の明渡ずみに至るまで一箇月金一万五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。4、被告株式会社まからず屋(以下「被告会社」という)は、原告に対し本件建物を退去して本件土地を明渡せ。5、訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決および右2ないし4について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、(一) 被告中尾純一、同中尾芳郎および同中尾正昭は、その被相続人である訴外亡中尾新一が昭和二〇年一二月五日に原告から本件土地を賃料一箇月金一二〇円、毎月五日にその月分を原告方に持参払、期間五年の約で賃借した旨、並びに中尾新一が昭和四二年二月九日死亡し、被告中尾純一、同中尾芳郎および同中尾正昭の三名がその相続人として法定相続分(各三分の一)に従い中尾新一の権利義務を承継した旨、従つて、本件土地の上に右賃借権を有する旨主張している。

(二) 原告は、右賃貸の事実および承継の事実は、いずれもこれを認める。

(三) しかし、右賃貸借契約は、中尾新一の死亡前にすでに解除されている。すなわち、

(1)  右賃貸借契約は、その後更新され、賃料も地価の昂騰等により昭和三二年一月以来一箇月金一万五、〇〇〇円に値上げされたが、中尾新一は昭和四〇年三月および四月の二箇月分の賃料を滞納した。

(2)  原告は、中尾新一に対し昭和四〇年四月八日付書留内容証明郵便をもつて同年同月一一日までに右滞納賃料を支払うよう催告し、右催告書は同年同月九日中尾新一に到達したが、中尾新一は支払わなかつた。

(3)  そこで、原告は、中尾新一に対し同年同月一五日付書留内容証明郵便をもつて右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示は同日中尾新一に到達した。

(四) 従つて、中尾新一はその後は本件土地の上に右賃借権を有しないから、被告中尾純一、同中尾芳郎および同中尾正昭が右賃借権を承継取得する筈がない。

二、(一) 中尾新一は、原告に対し上記のとおり昭和四〇年三月一日以降同年四月一五日までの一箇月金一万五、〇〇〇円の割合による賃料債務を負担した。

(二) 被告中尾純一、同中尾芳郎および同中尾正昭は、右賃料債務を各三分の一あて承継した。

三、(一) 本件土地を含む別紙第一目録記載の土地は、原告の所有である。

(二)(1) 被告中尾純一は、昭和三二年一二月二五日以降本件建物を所有して、その敷地である本件土地を占有している。

(2) 被告中尾純一の右占有は、何らの権限に基かない不法占有であつて、原告は右不法占有により一箇月金一万五、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害を受けている。

(三) 被告会社は、本件建物を占有して、その敷地である本件土地を占有している。

四、よつて、原告は、被告中尾純一、同中尾芳郎および同中尾正昭に対し上記賃借権の不存在の確認と、昭和四〇年三月一日以降同年四月一五日まで一箇月各金五、〇〇〇円の割合による賃料の支払いを求めるとともに、被告中尾純一に対し本件建物の収去および本件土地の明渡し、および損害発生後である昭和四〇年四月一六日以降右明渡ずみに至るまでの一箇月金一万五、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを、また被告会社に対し本件建物の退去および本件土地の明渡しを各求める。

と述べ、被告らの抗弁に対し、

一、(一) 本件土地の賃料は、毎月五日にその月分を支払う約定であつて、被告ら主張のようにその月分を月末に支払うよう変更されたことはない。しかも、右賃料が月末においても支払われたことは殆んどなく、原告から屡々滞納賃料の請求をなしてようやくその支払いをなす実情であつて、中尾新一は従前から賃借人としての義務を完全には履行していなかつたものである。

(二) 中尾新一が本件土地の賃料の支払いを被告中尾純一にさせていたこと、原告の上記催告に対し被告会社振出の額面金三万円の小切手を原告に届けたこと、右小切手が支払拒絶され、昭和四〇年四月一三日原告からその旨連絡したことは、認めるも、右催告が過大催告で、しかも催告期間としても相当でないとの主張は、否認する。

(三) 本件賃貸借契約の解除権の行使が権利の濫用であるとの主張は、否認する。

二、被告中尾純一が昭和四〇年四月二二日に同年三月分賃料金一万五、〇〇〇円を、また同年三〇日に同年四月分の賃料金一万五、〇〇〇円を鹿児島地方法務局に供託したとの事実は、認める。

三、被告中尾純一が昭和三二年一二月二五日中尾新一から本件建物の贈与を受けたことは認めるも、原告が昭和三四年一月中、中尾新一と被告中尾純一との間で締結された本件土地の転貸借契約を承諾したことの事実は、否認する。

と述べた。

立証(省略)

被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項のうち、(一)の事実は認める。(三)(1)のうち賃料を滞納したとの点は否認、その余の事実は認める、(三)(2)(3)の各事実は認める。

二、同第二項(一)の事実は認める、(二)の事実は、否認する。

三、同第三項のうち、(一)の事実は認める。(二)(1)の事実は認める。(2)のうち一箇月の賃料相当の損害金が金一万五、〇〇〇円であることは認めるも、その余の事実は否認する。(三)の事実は、否認する。すなわち、被告会社は本件建物の一階のみ占有し、二階は被告中尾純一が占有している。

と述べ、抗弁として、

一、(一) 本件土地の賃料の支払時期は、約定では毎月五日となつていたが、実際にはその月分を月末に支払つて来ており、この点につき従来何ら問題を生じていないので、右支払時期は実際の慣行によりその月分を月末に支払うことに変更されている。

(二) 中尾新一は、賃料の支払いを長年息子の被告中尾純一(被告会社の代表者)にさせていたところ、同被告は昭和四〇年三月二七日から翌四月七日まで東京に出張したため、その間うつかりしていて三月末日に支払う同月分の賃料の支払いを忘れていたところに原告主張の賃料催告の内容証明郵便が到達したので、驚いて四月一〇日被告会社振出の額面金三万円の小切手(鹿児島銀行宛)を原告に届けた(遅滞したのは三月分だけであるから、金一万五、〇〇〇円でよかつたのであるが、一応催告の金額を届けた)。ところが、同月一三日原告から同小切手は預金不足により支払いを拒絶された旨連絡があつたので、調べてみると被告会社において銀行当座預金の残額につき誤算をして残額が十分あると誤信していたことが判明したので、被告中尾純一はただちに被告会社の店員をして現金三万円を原告方に届けさせたが、原告不在という名目で家人から受領を拒絶され(同日は夕方までに数回届けさせた)、翌一四日さらに右現金を届けさせたが同様受領を拒絶された。かように、右催告は三月分のみならず、四月分までの賃料の支払いを求めるという過大催告であり、また支払期限を四月一一日と指定しているが同日は日曜日であるため実質上僅か一日間の期間しか与えなかつたにひとしく催告期間としても相当でない。よつて右いずれの面からみても、右催告は契約解除の前提たる催告としての効力はないものというべく、従つて、原告の上記契約解除の意思表示は、その効力を生じないものというべきである。

(三) 仮に上記主張が容れられないとしても、上記のような解除に至るまでの経緯と、本件賃貸借が過去約二〇年間全く平穏無事に経過していること、今回の賃料遅滞の態様が僅かに一箇月分を現金を届けるまで一三日遅滞した程度にすぎないことなどを考え合せると中尾新一の賃料遅滞は原告との本件賃貸借契約上の信頼関係に影響を及ぼす程のものではないと考えられる。これに反し原告の契約解除は、中尾新一のたまさかの、しかも軽微な落度に藉口して本件土地を取り戻そうとするものであるから、むしろ原告の方から従来の信頼関係を破壊しようとするものであり、このような解除権の行使は、権利の濫用として許されないものといわなければならない。

二、被告中尾純一は、昭和四〇年四月二二日に同年三月分賃料金一万五、〇〇〇円を、また同年四月三〇日に同年四月分賃料金一万五、〇〇〇円を鹿児島地方法務局に供託した。従つて、右賃料の支払債務は、右供託により消滅したから、被告中尾純一、同中尾芳郎および同中尾正昭は、中尾新一から右賃料の支払債務を相続により承継することは、ありえない。

三、被告中尾純一は昭和三二年一二月一五日中尾新一から本件建物の贈与を受けた際、同人との間で本件土地についての転貸借契約を締結した。そして、被告中尾純一は、昭和三四年一月中原告から本件土地の賃料値上げについて交渉を受けた際、原告に対し右贈与の事実を告げ、右転貸借について原告の承諾を得たものである。

四、被告会社は、その設立の日である昭和二四年一〇月二二日以降中尾新一から本件建物の一階を賃借し、被告中尾純一が本件建物の贈与を受けてからは、同被告から引き続きこれを賃借しているものである。

と述べた。

立証(省略)

別紙

第一目録

鹿児島市東千石町一三番二九

一、宅地 四二五・〇三平方メートル

第二目録

同所同番地

家屋番号 東千石町二二三番二

一、木造瓦葺二階建店舗 一棟

床面積一階 一九坪五合(六四・四六平方メートル)

二階 一七坪二合五勺(五七・〇二平方メートル)

別紙

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例